8月、ヤマキチョウ(以下「ヤマキ」という)で有名な上九一色村の本栖湖近くの草原である。私にとっては、初めてのヤマキである。私の田舎には、これと兄弟関係にあるスジボソヤマキチョウ(以下「スジボソ」という)はいたが、本種はいない。スジボソと本種は比べ物にならないくらい、本種のほうが上品である。田舎モンと都会育ちのような何とも言えない違いがある。
そこで、是非とも見たいと、車を走らせてきたものである。これまでも、長野の霧が峰とかでも探したのだが、どうしても会えなかった。幼虫の時季にクロツバラを見ても、スジボソの幼虫とヤマキの幼虫の違いが私には分からなかった。
そのため、今日はヤマキにターゲットを絞り、有名なポイントに来た。キャンプ場を右に見て、その先の左の草原である。このあたりは、高原性の草原で低木がポツンポツンと混じっている。天気は快晴。私は、アザミの花に止まっているのをイメージしていた。私が見ていた写真はそういうものだった。しかし、ヤマキの姿はない。全くない。未だ発生していないのか。飛び出す時間があるのか。同じような草原を見つけては、歩き回るも一向に見えない。確かヤマキは、越冬して卵を産む。場所にもよるだろうが、夏までには羽化しているはずである。休眠するとも書いてあった。いるはずだ。
今まで、草原の周りに付いた道を歩いていたが、思い切って草原に入り、低木を棒で叩いてみた。すると、あら不思議、鮮やかな黄色が舞うのである。澄み渡る青空と黄色と緑、きれいなコントラストである。何度か繰り返すと、メスも結構いる。不活性な性格ゆえ、羽に傷や汚れがなく新鮮に見える。脅かすと飛び出すが、すぐに葉の裏側に止まる。
明るい草原を飛び回り、アザミなどの花に止まり、蜜を吸うものと決めつけていた。だから、会えなかったのだ。私の勘違いである。鮮やかな黄色の羽を纏い、モデルよろしくランウエイを闊歩する姿を、勝手にイメージしていた。だから、今までヤマキには会えなかった。会えるのは、スジボソだけ。つまり、スジボソは外交的で、ヤマキは、控えめということである。双子のように似ているが、性格は対照的ということである。いやー、本当にいろいろな性格があるもんだと改めて驚いた。そして、フィールド観察で先入観を持ってはいけないということを、今回も勉強した。ヤマキの鮮やかな黄色を十分に楽しんだ後、本栖湖キャンプに入り、テントを張り妻とビールで乾杯をした。
今から30年以上前の話である。今年は久しぶりに会いに行こうかと考えいる。